堀辰雄を語る 
堀辰雄と親しかった人達による思い出話・エッセイ等。堀多恵子堀辰雄周辺の人々

■色の文字はオビや裏表紙に載ってる紹介文、キャッチコピーです。■色の文字は目次です。
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※お気に入り度を★5つ満点で表示してますが、とにもかくにも気まぐれ管理人のことなので何の参考にもなりません。
※「形態」は管理人が所有している書籍の形態を記載してます。なのでハードカバーとあっても文庫版が出ていたりその逆もあるかもなのでご了承ください。
※「発表年(初出)」は巻末に記載されている初版年月日を写しました。なので西暦と和暦が入り混じっててすみません。基本的に刊行された順に並べてます。

堀多恵子作品
タイトル・著者 出版社  形態 発表年(初出)
堀辰雄 妻への手紙 新潮社 ハードカバー/文庫 S34.3.25
 
オススメ!★★★★★
大和路、信濃路、木曽路…仕事のかたわら、堀辰雄は旅先から手まめに妻に手紙を書き送った。作品の成熟を待ちつつそのモチーフを語った手紙。奈良の風物をめぐる瞑想を綴った便り。友のこと、愛読書の感想、健康状態など。そこには彼の文学に対する信条と、妻に対する芸術家のきびしい愛情がにじみ出ている。巻末にはこれを受けた妻の追想があり、美しい愛の二重奏をなしている。
昭和十二年/昭和十三年/昭和十四年/昭和十五年/昭和十六年/昭和十七年/昭和十八年/
堀多恵子・辰雄の思ひ出(辰雄の手紙/晩年の辰雄)

多恵子夫人へ宛てた堀辰雄の手紙に夫人の解説・随筆を加えた一冊。知的で思慮深く、なのにどこかすっとぼけてて人懐っこい、そんな手紙の文面を追ってると、知らずと心がほぐれてゆく。「そちらは随分暑いだらうからなるたけ横着にしてをれ そして一日も早くこちらに来い 氷砂糖をもってこい」「お前のことを忘れてゐたのではない。お前はいつも僕の裡に、そんなよそゆきの姿ではなしに、ふだんのままのお前の姿で、ずっとゐたのだよ」後半の奥様の随筆がまた優しくて切なくて、しみじみと沁み入るような味わい深さがある。おっとりマイペースでちょっと頑固な旦那様と、いつも明るく自然体で前向きな奥様の、ほのぼのしつつもキリッと芯の通った夫婦愛に胸打たれます。  
葉鶏頭・辰雄のいる随筆(新編) 麥書房 ハードカバー単行本 S53.11.30
 
★★★★
美しからざれば哀しからんに!堀辰雄と共に在った十五年の歳月、またその生涯の地浅間高原にゑにし深い師友室生犀星、川端康成、神西清、丸岡明、立原道造、津村信夫の俤を語る筆は惜別の想ひに満ちて…
T…タツオ・花・小鳥/むかしの人/葉鶏頭/早春/童話的な手紙/ふるい日記より/
U…正月/ふるさと/おもかげ/蔵書について/初秋の信濃追分/日課/絹の着物/普段着/石仏/春/追分の庭/夏の日記/墓/昔日/野の花/移り変り/大和路の秋/リルケのこと/芝生/辰雄と音楽/辰雄の句/
V…室生先生のこと(室生先生のこの頃/几帳面な室生先生/つらい思い出/生きているという事) 川端先生のこと(川端先生のことその1/川端先生のことその2/軽井沢の川端先生/お汁粉/回想) 神西さんと丸岡さん たった一年のおつき合ひ 穏やかな津村さん
あとがき 発表紙誌一覧
「妻への手紙」姉妹編として昭和45年に刊行された堀多恵子随筆集「葉鶏頭」の新編。Tは堀辰雄の生前に多恵子夫人が雑誌等に寄稿した作品、Uは堀辰雄没後に書かれた作品、Vは堀辰雄とゆかりの深い人々について書かれた文章を収録。夫堀辰雄の素敵なところダメダメなところ、楽しいことばかりじゃなく辛いことも多い日々の暮らし…多恵子さんの筆にかかるとそれらすべてが温かくほほえましい情景になる。立原道造や室生犀星、川端康成らとのエピソードも、彼らの飾り気ない素顔が垣間見えて癒されます。   
来し方の記・辰雄の思い出 花曜社 ハードカバー単行本 S60.5.25

 ★★★★
堀辰雄歿後三十三年 堀辰雄との結婚生活十五年――戦中・戦後の二人の、歓びと苦しみの日々を思いをこめて綴り、孤高の作家堀辰雄の半生を映し出す回想記!
来し方の記…不思議な縁/一つの覚悟/軽井沢での新婚生活/違った生い立ち/逗子から鎌倉へ/東京の住人になる/喜びの年/軽井沢の山荘/厳しい疎開生活/無理な上京/長い闘病生活/追分の新居/突然の死/全集出版の傍で/時過ぎて/
辰雄の思い出…辰雄の手紙――思い出すままに――/晩年の辰雄/
堀辰雄 妻への手紙
あとがき

信濃毎日新聞の夕刊に連載された「来し方の記」に、「妻への手紙」+「辰雄の思い出」の再録を加えた単行本。日々のごはんや住まいのこと等、ふたりのつつましい暮らしぶりがより詳細に描き出されていて当時の世相・風俗を知る意味でもおもしろい。慣れない家事をおっかなびっくりこなしていた新婚の多恵子さんがバリバリたくましくなってゆく姿が可愛いやら頼もしいやら。良くも悪くもマイペースな旦那様と、何事にも全力投球な奥様の、ちぐはぐなようでピタリとうまの合った暮らしが淡々としたタッチで描かれていてなんとも楽しい。   
堀辰雄の周辺 角川書店 ハードカバー単行本 H8.2.28

オススメ!★★★★★
濃密な文学的雰囲気を懐かしむ/軽井沢、追分を主な舞台に文学という縁で夫と結ばれた文学者たち――妻の立場から過ぎし日を回想し彼等の素顔を活々と描き出した人物エッセイ
はじめに
室生犀星/芥川龍之介/神西清/川端康成/丸岡明/深田久弥/中野重治/驢馬の同人/佐多稲子/立原道造/野村英夫/森達郎/津村信夫/日塔聰/小山正孝/折口信夫/角川源義/中里恒子/深沢紅子/生田勉/萩原朔太郎/三好達治/伊藤信吉/富士川英郎/竹中郁/佐々木基一/山室静/橋本福夫/阿比留信/中村真一郎/福永武彦/加藤周一/加藤道夫/矢内原伊作/葛巻義敏/畑中良輔/湯浅芳子/吉田洋一/河盛好蔵/河上徹太郎/小林秀雄/井伏鱒二/佐藤春夫/岸田國士/片山廣子/思い出の数々/

堀辰雄の生涯――年譜風に
あとがき

産経新聞夕刊に連載された「堀辰雄の周辺」の単行本。文字通り、堀辰雄の周辺の人々との交流を多恵子夫人の視点から描き出した回想録。先輩後輩友人たち、さまざまな人々から堀辰雄がどれほど愛され大切に思われていたかがよくわかる一冊です。超おすすめ。   
山ぼうしの咲く庭で
堀井正子 編
オフィス・エム ハードカバー単行本 1998.4.17

★★★★
 
小説家・堀辰雄夫人がはじめて語った八十余年のひと・家・時代…そして私自身/幼少を過ごした香港・広東の生活 青春を謳歌した東京時代 辰雄との出会いと新婚時代をおくった軽井沢の家…いま、追分の家でふり返る追憶の日々
はじめに
第一章 誕生・父母・香港(祖父母のこと/父母の結婚/静岡生まれ香港育ち)
第二章 帰国・学校・就職(十歳の帰国子女/加藤家のリベラリズム/寄宿舎の冒険/大の仲良しだった父の死/東京女子大英語専攻部/それぞれの就職事情/夢はお船のスチュワーデス/金谷ホテルの日々/お花の先生の通訳/子爵家の家庭教師/お給料のこと)
第三章 出会い・結婚・献身(堀辰雄との出会い/結婚のこと/結婚の夢…/この人のために/向島での一か月)
第四章 小説家・疎開・別れ(私の人生で一番高いところ/小説家のかたわらで/戦時中の東京生活/堀家の経済/追分疎開/細腕で鍬をふるう日々/三味線の子守唄/養女のこと/昭和二十八年五月二十八日)
第五章 ひとり・思い出・そして今(忙しさが空しさを埋めてくれた日々/湯布院の休日/歳月はあわただしく過ぎて/あらためて結婚指輪/趣味も旅行も/書く仕事/傷を受けることも/心の痛み/病気も成り行き/思い出の家を寄付/自然体のクリスチャン/見送るということ/追分を終の棲家に/いい距離、いい付き合い/そして、私は私…)
聞き終えて 堀井政子
語り終えて 堀多恵子

自身の生い立ち、堀辰雄との出会いと結婚生活、そして夫亡き後の暮らしと今抱えるさまざまな思いを語る堀多恵子夫人追憶の記。インタビュー形式のため、より率直な多恵子夫人の心の声に触れることができます。淡々と、若干ツンデレな語り口のなかに、亡夫へのゆるぎない愛があふれてる。私は多恵子さんの書かれたものを読んでますます堀辰雄が好きになり、同時に熱烈な多恵子ファンとなりました。

堀辰雄周辺の人々
タイトル・著者 出版社  形態 発表年(初出)
我が愛する詩人の伝記
室生犀星
中央公論新社 ※文庫 1958
 
オススメ!★★★★★
生涯にわたり詩を書き続けた犀星が、親しい交わりを結んだ白秋・藤村・朔太郎・光太郎など十一人の詩人たちの風貌を描き、詩人らが遺していった優しい魂と眩しいことばの星々を仰ぎつつ、独自な筆で捉えた日本抒情詩の流れ。
北原白秋/高村光太郎/萩原朔太郎/釈迢空/堀辰雄/立原道造/津村信夫/山村暮鳥/百田宗治/千家元麿/島崎藤村/
あとがき
解説:三木卓(※文庫版)
自分より先に死んでいった親しい詩人たちを回想した室生犀星のエッセイ。客観的な評伝ではなくあくまでも犀星の感情を通した伝記なので、実際のエピソードをなぞりつつ、けっこう気ままなアドリブが入ってる感じ。愛をこめて。犀星の語る堀辰雄は見た目も中身もおっとりと女性的で、どこまでも萌えキャラ。「堀辰雄」の章だけでなく釈迢空、立原道造、津村信夫の章でもちょこちょこ登場、やっぱり萌えキャラとして。そんなあぶなっかしいくらい内気でナイーブな堀辰雄に尽くすナイスガッツな奥様・多恵子夫人へのまなざしがまたたまらなく温かいのです。
追想・芥川龍之介
芥川文/中野妙子
筑摩書房 ハードカバー単行本 S50.2.15
 
★★★
昭和二年七月、芥川龍之介自殺の日までわずか十年の結婚生活のうちに日日深まる夫の苦悩に心を痛めつつも優しい気配りを絶やすことがなかった夫人が去り行く年月の足音を愛惜して語る龍之介追想録。――本書は文夫人が口述し中野妙子氏が筆記した。
1〜49
筆者によるあとがき
芥川龍之介夫人による追想録。亡き主人との思い出を淡々と綴っているのは堀多恵子さんと同じなのに、こちらは何ともほの暗く沈んだトーンで胸がふさぐ。文夫人が見上げた良妻賢母なだけにいたたまれない。ダンナがんばれもっとがんばれ。(がんばれないからああなっちまったんだろうが)夫の死顔に「お父さん、よかったですね」とささやく夫人の姿に何よりの夫婦愛を感じる。ちょっと驚いたのは文夫人が父(海軍軍人)の縁で幼少の頃に東郷平八郎や秋山真之と会っていたこと。すごいっ!あ、肝心の堀辰雄はちらと名前があがるのみ。芥川家とは犀星家ほどには家族ぐるみの付き合いしてなさそうだもんね堀さん。ただ、文夫人の友人であり龍之介と心中未遂事件を起こした平松ます子という女性が、のちに夫人に「自分は世間から誤解されいろいろ釈明もしたいがそのことを書いてほしいのは堀辰雄さんしかいない」と語ったというエピソードが地味に衝撃的。えっどういう意味?「聖家族」「菜穂子」みたいに美しい物語に昇華してほしかったのか、あるいは何らかの裏事情を堀さんだけが知ってるのか。気になる…   
折口信夫の晩年
岡野弘彦
中央公論新社 ※文庫 1969
 
★★★
直観と実証と独創にささえられた碩学の晩年を、その日常をともにした愛弟子が敬愛こめて描き、学問と詩につらぬかれた折口信夫の鮮烈な人間像を浮き彫りにする。
折口信夫の晩年・一〜二十一/
解説:中野孝次(※文庫版)
愛弟子岡野弘彦氏による、折口信夫の戦後からその死までを追った回想録。雑誌「芸能」に連載。追分で療養する堀辰雄を折口とともに見舞った日のこと、堀の訃報に博物館のガラスに額を預けて悲しみに沈む折口の姿、堀の葬儀で詠まれた折口のいっぷう変わった弔辞(Jさん、Jさんと呼びかけるミョーな詩)、そして困惑する神西清(←Jさん)。その神西清が堀辰雄全集出版の件で折口の弟子である角川源義を説得してもらうよう折口宅を訪れた日のことなどが語られています。折口サイドからみても堀辰雄は癒しキャラなのが数少ないエピソードからもよくわかる。学者であり歌人である折口信夫の、そのなにげない日々の暮らしぶりや細やかな喜怒哀楽を通して、一筋縄ではいかないエキセントリックな、それでも温かみのある輪郭がみえてくる一冊。  
水を聴きつつ
神西清
風信社 ハードカバー単行本 S53.8.5

 ★★
序にかえて・水を聴きつつ/竹中郁「署名について」/辻野久憲・きれぎれの追憶/立原道造・鹿の記憶など/(詩人立原の夭折するや、)/堀辰雄・堀辰雄への手紙/病床の友への手紙/あとがきにかえて・日記/
神西清の、詩誌「四季」を主として交流のあった文学者に関するエッセイを集めた一冊。学生時代からの親友である堀辰雄にまつわる作品は「水を聴きつつ」「堀辰雄への手紙」「病床の友への手紙」の三編(ほか立原道造の章や日記でもちょくちょく名が挙がる)。ただその内容は文学批評だったり手紙という形式を用いたガチな学術論だったりするので、むずかしいばっかりで別におもしろおかしくはない。立原道造との数少ない思い出話を書いた「鹿の記憶など」は、若い牡鹿に見立てられた立原道造の溌剌とした在りし日の姿が思い起こされて楽しく、またほろ苦い。
消えゆく幻燈
竹中郁
ノア叢書 ハードカバー単行本 1985.3.7
 
★★★
きらめく詩業を残し天成の詩人と称される著者の、詩人や画家たちとのさまざまな出会いを描く。堀辰雄、稲垣足穂、三好達治、丸山薫、室生犀星、井上靖、鍋井克之、小磯良平、熊谷守一他。
T消えゆく幻燈(堀辰雄…古い記憶新しい記憶/二三片/エソヤンホテル/神戸から)
U親愛な画家たち
V短編五つ
年譜 人名索引
解説:足立巻一
神戸の詩人竹中郁が綴る、芸術家らとの交流の回顧録。そのトップを飾るのが堀辰雄の章。昭和二年芥川龍之介宅で初めて出会った時のこと、堀辰雄の神戸旅行の案内役をつとめた時のこと、また病弱で繊細ながら江戸っ子らしく一本筋の通った堀辰雄という人物の魅力が語られてます。東京と神戸というそれぞれの地を拠点にしつつ厚い友情を育んでいったふたりの文学者の間には「芥川龍之介」という見えない運命がつねに存在していたもよう。「堀君、もう三十五年生きよう。つまり芥川さんとこで会ってから五十年というところで死んでもいいということにしよう」と呼びかける竹中郁。実際には五十年とはいかなかったけど堀辰雄は芥川の享年よりずっと長生きし、当の竹中郁は約束の五十年をしっかりと生き抜くことになる。   
迢空・犀星・辰雄
小谷恒
花曜社 ハードカバー単行本 S61.6.10
 
★★★
代表的抒情詩人<釈迢空・室生犀星・堀辰雄>三人の日常の姿を、40年に近い歳月の中、常に身近かで接してきた著者が、懐旧の情を込めて綴る。
T釈迢空…釈迢空往還抄/風塵を追う/超空日常/「詩集・小説」案内/別の面/
U室生犀星…犀星の日々/「あにいもうと・山吹」/「舌を噛み切った女」など/「山吹・えにしあらば其他」/王朝小説の背面から/「姫たちばな」まで/「熊野」と「遠つ江」/心残りの記/
V堀辰雄…堀辰雄と折口信夫/伊勢物語の来歴/訪問(一 向島・追分油屋/二 愛宕山水源地/三 逗子・成宗)
あとがき

釈迢空(折口信夫)の弟子である著者が親しく交流した三人の文学者の回顧録。中学時代からの恩師である折口信夫にいちばん多くページ数が割かれていて(全ページのほぼ半分)、長じての文学の師である室生犀星についてはその半分ほど、犀星を介して知り合った堀辰雄に至ってはさらにその半分ぐらい。この不公平なページ配分は扱う人物と著者の付き合いの長さというよりは、その人物の「変人度」に比例している、ように思えてならない。迢空、犀星はつくづくネタの宝庫。次いで堀辰雄の章を読むと堀さんの物足りないくらいの真人間ぶりがきわだつ。「堀辰雄と折口信夫」「伊勢物語の来歴」では西欧文学から日本の古典へシフトしていた時期の堀辰雄の様子が描かれ、「訪問」では堀辰雄の向島の実家での身内に対するぶっきらぼうな「素」の顔、追分に遊びに来た三好達治のヤンチャぶりなんかが垣間見えて楽しい。   

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